職場の窓から、雲ひとつない青空を眺める

外は猛暑だ

 

向かいの大きな公園の木が、ざわざわと揺れているのを見て

その揺れ具合から、風の音や勢いを、想像した

 

f:id:lan641:20200820150155j:plain

 

先日お墓参りに行ったときのことを、ふいに思い出す

 

うちの墓所は、小さな山のなかにある

お墓のまわりにも楢や栗、くるみの木が生い茂り、さわやかな空気の場所

 

お線香をあげたあと、何気なく木を見上げると

それは栗の木で、枝にはまだ青いイガグリがいくつも実っていた

 

ぼんやりと見上げていると、

頭のなかで、父の声が栗の木に呼びかける

「おうい、栗の木。やまねこを見なかったかい?」

 

物心の付く前から、何度もなんども読み聞かせてもらった『どんぐりと山猫』

今も、若い父の声が耳に残っている

 

すきとおった風がざあっと吹ふくと、栗くりの木はばらばらと実をおとしました。一郎は栗の木をみあげて、

「栗の木、栗の木、やまねこがここを通らなかったかい。」とききました。栗の木はちょっとしずかになって、

「やまねこなら、けさはやく、馬車でひがしの方へ飛んで行きましたよ。」と答えました。

「東ならぼくのいく方だねえ、おかしいな、とにかくもっといってみよう。栗の木ありがとう。」

 栗の木はだまってまた実をばらばらとおとしました。

 

父は読み聞かせがとても上手い人だと思う

登場人物に合わせて、すべて声色を変えて、ゆたかな抑揚をつけて、読む

 

父の演じる馬車別当(『どんぐりと山猫』に出てくる)が、あんまりにも不気味だったので

幼心に「バシャベットウは、こわいいきもの」なのだと思っていた

妖怪なのか、人なのか、よくわからない不気味ないきもの

 

バシャベットウが、馬車別当という職を表す言葉だと認識したのは、ずいぶん大きくなってから

だけど未だにわたしの頭の中では、バシャベットウはこわい

 

そんなことを思い出しながら

お父さん、見て、栗の木、と言うと

父はすぐさま「おーい、栗の木~?」と呼びかけた

伝わるだろうと思っていたから、予想通りの反応ではあるけれど

やっぱり笑ってしまう

うん、それそれ

 

ざわざわ揺れる木を見れば、思う

「やまねこなら、けさはやく、馬車でひがしの方へ飛んで行きましたよ。」

そんなふうにおしゃべりをしているんじゃないかって

 

 どんぐりと山猫 (日本の童話名作選) [ 宮沢賢治 ]