『扉のかたちをした闇』という詩集のまえがきが、とても好きだ

詩は暗闇に生息するのだと思う、とあるとき私が言うと、森雪之丞さんは、でも、もしその暗闇が扉のかたちなら、あけることができる、と言いました。びっくりした。だって扉のかたちをした闇ーー。そんな大胆な発想のできるひとを、私は他に知りません。それ、あけたらどうなるんでしょう。おそるおそる尋ねると、雪之丞さんは静かに優雅に微笑んで、それは、あけてみればわかるんじゃないでしょうか、と、いつもの丁寧な言葉遣いでこたえるのでした。

 

こういう文章と出会える瞬間があるから

本屋さんが好きで本が好きで、文章や言葉が、好きだ

 

物事を捉える目線は、いくらあってもいい

あればあるだけ、優しくなれる気がするから

 

わたしはずっと、もっと優しくなれたらいいのにと思い続けている

狭量な自分に嫌気がさすことばっかりだからね

 

小説を読むことは

つまり

死ぬ準備をすること

いつか

この世のすべてに別れをつげる

練習をすること 

 

「小説を読むことは」江國香織

 

 

普段はあまり詩を読む習慣のないわたしだけれど

 印象深い詩はいくつかあって、これもそのうちの一つ

 

この詩集は、江國香織さんと森雪之丞さんの連弾詩集になっている

一冊の本にはこう、統一とまではいかなくとも、その人の空気みたいなものがあると思うのだけれど、

この本は二人分の空気感が入り混じっていて(そりゃあそうなんだけれど)

不思議なグラデーションのなかをふわふわと、行ったり来たりしているような心地になる

それがなんだか心地よくて、好きだ

 

扉のかたちをした闇

扉のかたちをした闇